さんかくの部屋

アニメ、ゲーム、ミステリ感想、二次創作多めの雑多ブログです。最近は、まどか☆マギカ、マギアレコードばっかりですがよろしくです。

流されて密室‐覚醒編②‐

読子は夢を見ていた。

長い長い夢から醒めたのにまた夢を見ている感覚。怖いようなそれでいて懐かしいようなたとえようのない気分。
人の良さそうなたれ気味の目をゆっくりあける。



「先生?」



視界に地面にしゃがみこんだねねねが映る。その顔は読子に向けられており、その表情は……怯えていた。
手を伸ばそうとしたが思い通りにいかない。不審に思っていると、ねねねが自分に向かって何か叫んでいる。



「あんた、誰?センセイを返してよ!」



え?先生私ですよ…あれ?声が出ない



『はは…ははは!面白い、なるほどこの女が気に入るわけだ』



今の私の声?


読子は驚く。そう、自分の意思とは関係なく自分が喋っている。読子の心に焦りが生じる、どんな状況下においても冷静であろうとした
彼女の心が揺らぎ始めた。そしてその瞬間「声」が頭の中から聞こえた。



<頼むから落ち着け読子、おまえが焦ると私はうまく行動できない>
<あなたは誰ですか?>
<………まあ、おまえの体に間借りしている者とだけ答えておくよ>



読子の視界にまたねねねが映る。気の強そうな彼女の顔を見ていると、なぜか読子は安心する。いつもそうだ…なぜだろう?



<この小娘が気に入ってるのか?>
<……ええ>
<じゃじゃ馬だぞ?>
<いや、そこもなんというかいいというか、可愛いと思いませんかね?>
<全然>
<本当は優しいいい子なんですってば!>



場にそぐわない議論が同一人物の中で始まった。「声」が少し沈黙する。そして



<……不思議なものだ>



と言って笑った。読子の頭が重くなる。



<あれ…?>
<もう少し眠ってろ、戦いが終わったら起こしてやる>
<ちょっ…>



この人は一体誰なんだろう?そう思いながら読子はまた眠りに落ちていった。




*      *      *      *       *      *        *       *


「どうしよう姉さん、あのままじゃ」
「……」



気絶したアニタを抱いたままミシェールはドニーと読子の戦いを見つめている。ミシェールもまたこの場をどう解決するべきか
逡巡していた。



「マギーちゃん、あの二人かなり強いわ、でも今はあの中に私たちが入ってはいけない気がする」
「姉さん…」
「しばらく様子を見ましょう」



もし、最悪の場合菫川先生だけでも…とミシェールは思っていたが、口には出さなかった。



*      *      *      *       *       *        *



シャッ、と風を斬る音がした。


読子の左頬に赤い線が現れる。ドニーが放った高速の紙が頬を切ったのだ。その紙は読子の足元に突き刺さる。

ツ…と鮮血が一条流れ落ちた。



「センセ!」
「うるさい黙ってろ…集中できん」



ねねねを見ないまま読子は冷たく言い放つ。ねねねは気づいていないが、読子の「間借り人」は無意識にねねねを守ろうとしている。
そのためクローンに比べ注意力が散漫になっているのだ。読子は冷たく横目でドニーを見ていた。
ドニーのクローンも不敵に笑みを浮かべながら見つめ返している。二人は円を描くような歩をやめない。



「いいな、その目…君のその冷たい目が忘れられなかった」
「おまえを殺したときの目だというのにか、気味の悪い奴だ」
「君に言われたくないね…読子




無言で読子は両手から紙をマジックのように出した。その目は一層暗く陰鬱になり、口元は冷笑を浮かべたまま歪んだ。
冷酷な雰囲気をたたえた読子は皮肉にも美しかった。もともと美しい造形を持っていながらも
その一般女性とはだいぶかけ離れた特殊な人格のせいでまったく周囲に認知されていなかった。
それがこの非常時に花開いた、別人格のままで。



…綺麗

そしてねねねも読子に見惚れていた。命の危険にさらされているというのに、ねねねの小説家としての好奇心が疼きだす。




「おまえのようなクローンは何人いる?」
「さあね」
「……数えきれないくらいなのか?大英図書館もくだらないことを…」
「くだらなくはない!」




ドニーから笑みが消えた。冷笑を浮かべている読子を睨む。



大英図書館は崇高な目的のために僕をこのように甦らせてくれたんだ!このドニー中島をね!」
「だからくだらないと言ったんだ」
「何?…うっ」



ドニーの膝が地面につく。いつの間にかドニーの右腿に紙が刺さっていた。紙ヒコーキだ。



「いつの間に…」
「コンマ数秒あれば片手でも作れる、おまえが教えてくれたはずだ。…いや、おまえの原型がね」
「くそう」



読子はとどめを刺さない、面白そうにクローンを眺めているだけだ。そして読子もまた笑みを消した。



「…おまえはドニーじゃないただのできそこないだ」
「なにおう」
読子が愛した男は死んだ、私が確かに殺した。だから」



おまえも死ね、そして読子は動いた。



ねねねの頭上に突風が巻き起こった。素早い動きで二人が頭上で衝突したのだ。同時に白い無数の紙が二人を覆う。
紙が生き物のように自ら変化する。飛行機をかたどるもの、鶴をかたどるもの…それらが集まり蛇のようにうねりながら空へとあがる。
中から読子とドニーが飛び出す。読子が右手を一閃する、紙が刃のようにドニーの首元を狙うがそれを紙一重で避け、
ドニーも右手を一閃する。読子の左手から紙でできた「刀」が現れそれをはじいた。



「すごい…」



マギーが思わずつぶやく。紙を武器としてのみ扱い肉弾戦を得意とするマギーやアニタからは想像もつかない戦いだった。
紙自体が紙使いから独立し攻撃するタイプと武器使用の同時複合型の戦いは、片方がクローンとはいえ
「ザ・ペーパー」同士の戦いだからこそ可能なのだろう。



「アート…」



そしてミシェールもつぶやく。戦いは時間が決めてである。いかに単純な動きで素早く相手を制することができる
かが勝負の分かれ目だが、紙使いの戦いの場合そこに創造性という不釣り合いな要素が入り込んでくる。
紙をいかに使用し、いかに変化させるかそれを多く考え、実行できたものが勝つのだ。
まさにその戦いは芸術にも似ている。だが、その芸術はあっけなく幕を閉じることになる。



「そろそろ済ませたか」
「?何?」



紙の刀を交わらせながら二人は見つめあっていた。一人は余裕の笑みを浮かべ、そしてもう一人は焦燥の表情を浮かべながら。
読子はにやりと笑って言った。



「お祈りだよ、おまえの」
「なんだと…」
「ザ・ペーパーが継承する力を忘れたのか?ひとつは…」



ぐにゃり、とドニーの持つ刀が歪み、ただの紙と化して地面へと落ちていく。「まさか」とドニーは唸った。



「紙を無効化することそして」



蛇のようにうねり続けている紙がドニーに迫ってくる。




「もうひとつは、全ての紙を味方につけることだよ、さようなら…ドニー君」




断末魔の叫びとともにドニーは蛇にのみ込まれていった。






つづく