さんかくの部屋

アニメ、ゲーム、ミステリ感想、二次創作多めの雑多ブログです。最近は、まどか☆マギカ、マギアレコードばっかりですがよろしくです。

書を愛し狂う者いわく(1)

三姉妹が初めて読子・リードマンと邂逅し、共に埼玉にある彼女の実家に身を隠してた頃の話である。


「あいつとする仕事はなぜか気持ちがよくてな」


金髪で大柄な体躯を持つ傭兵ドレイク・アンダーソンは読子についてそう語った。


「……ふーん」

だがその話を聞いていたのは12歳のアニタ。彼が語る言葉の意味を全て理解できるとはまだ言い難い。
それでも、少女は彼が浮かべる笑みを見て、それがいかに重要なことか、それは理解することができた。


「あいつがあんなに怒るってことはいったい何があったのかな…」
「見たことないの?あの人が怒るところって」


やはり12歳の子供といったところか、ドレイクの語る意味とは少しずれたところにアニタの関心が向かった。
だが、それがよかったのか普段無口なドレイクもまた珍しく語りだす。それはほんの偶然か、それとも彼自身が実は誰かに
語りたかったことなのか。


「ああ、あいつは怒るというよりも、そういう時いつも悲しそうな顔をするんだ。だが…」


何回かは見たことがある、と、そのうちのひとつの事件についてドレイクは語りだした。




*     *     *     *     *      *      *      *      *


普段あまり本を読まないドレイクにとって、図書館はえらく退屈極りない場所である。物音ひとつ立てれば年若い司書に
注意され、取り立てて金品など盗難の恐れもないのに半強制的にロッカーに手荷物を預けさせられと不自由極りない。
できればあまりかかわりたくない場所だが、ここが大英図書館特殊工作部の「入り口」なのだから仕方ない。
数回の手順を踏んでドレイクは作戦室へ入っていった。


「ようこそ、ドレイク・アンダーソン」


金髪をオールバックに仕上げた男が優雅にドレイクに挨拶を交わす。ジョーカーと呼ばれるこの男はジェントルメンの側近にして
大英図書館特殊工作部指揮官でもある。優雅な物腰と慇懃な態度は初対面の者に安心感をもたらす。が、その目をひとたび凝視した
としたら、その印象は180度変わる。彼の目には得体の知れない光が宿っている、ドレイクにはそれがいやというほどわかっていた。


「…今回の仕事はなんだ?」


ドレイクの言葉に「まあ、あせらずに」と返しながらジョーカーは傍にいる秘書らしき少女から紅茶を受け取る。褐色の肌に金髪
という珍しい容貌の少女だ、この組織には不似合いなどこか純朴な気配を感じドレイクは好感を持った。だが特段人間観察に興味を
持ってるわけでもない彼は、すぐにジョーカーに視線を戻す。


「もうひとり今回の作戦のパートナーが来てないのでね」
「すみませ〜ん、遅れました!」


ワンテンポ遅れたブリティッシュイングリッツシュを聞いてドレイクは、おおい、またかよとつぶやいて天を見上げた。
息を切らせドレイクの横に立ったのは、数回パートナーを組まされた「ザ・ペーパー」こと読子・リードマンだった。


「またおまえか」
「はい、よろしくお願いします」


にこにこと子供のように微笑んで見上げられると、何もいえなくなる。ドレイクはただ「はあ」とため息をついて読子から視線を逸らした。


「ようこそ、読子、非常勤教師の仕事は順調ですか?」
「ええ、まあなんとか…でも最近はなかなか連絡もこなくて〜」


へらへらと頭を掻いて喋る読子を見て、ジョーカーは仕方ないですねえ苦笑する。
ビブリオマニアの彼女に対してもジョーカーは英国紳士だった。


「さて、今回の作戦を説明します」


一瞬にして空気が変わる。ジョーカーの背後から光が差し、読子とドレイクの背後に映像が現れた。
映し出された映像はロンドンのイラン大使館だ。窓からあがる炎と爆発音、銃声が響き渡る。


「…これは」
「そう、イラン大使館占拠事件の映像です」


ジョーカーがドレイクに答える。黒装束の人間が素早い動きで窓の中に入っていく。


「…1980年の4月から5月にかけて発生した事件ですよね、わずか数分間でSASが犯人6名中5名を射殺して、人質全員を解放した…」


淡々とひとごとのように読子が語る。読子は一度読んだものはすべて暗記する。新聞もそうである。
記憶をたどって朗読しているにすぎないが、眼鏡の奥の目は光の反射でうかがえない。ドレイクは読子もまた「得体の知れない」
者であることを再認識した。


SASスペシャル・エア・サービス>…英国特別航空任務部隊はその名称から空軍を連想しがちだが、実は英陸軍によって創られた
部隊である。その名は当時のドイツ諜報部を欺くために作られたものだ。読子が語った通り、わずか数分間で犯人を制圧し人質を
救助する一部始終はテレビに映し出され、対テロ部隊としての名声を確立するまでとなった。


…だが、なぜジョーカーはこんな映像を俺達に見せる?

嫌な予感がした。しかも今日は仏滅だ。そしてドレイクはこの予感が的中したことを数分後に知ることになる。




つづく