さんかくの部屋

アニメ、ゲーム、ミステリ感想、二次創作多めの雑多ブログです。最近は、まどか☆マギカ、マギアレコードばっかりですがよろしくです。

ほむら思い出し笑いをする(まどマギ二次創作)

「はい、美樹の携帯です」

意識は未だ朦朧としているが、暁美ほむらはとりあえずきちんと返答した。問題はそこからだ。携帯のレシーバーから男性のがなりたてる声が聞える。眉をひそめ、その圧倒的美貌に「不愉快」の表情を滲ませながら、ほむらは囁いた。

「……どなたですか?」

サイドボードに視線をやると時計の表示は「02:30」。
不機嫌そうに息を漏らし、ほむらは白いシーツの中、横にしていた身体を仰向けにした。白い細い腕を動かし、乱れた長い黒髪に手をやる。彼女はついさきほどまで安眠をむさぼっていたのだ。暗い室内に月明かりが差しこみ、キャミソール一枚を纏った彼女の美しい肢体が露わになる。

「……だから、あのひ…いえ、「彼女」は寝てます、あ、もしかして…岡山さん?」

がなりたてる声に聞き覚えがあったのか、ほむらはしかめた顔を元に戻し、ゆっくりと上体を起こした。ヘッドボードにもたれながら、ふう、と息を漏らす。次第に覚醒してきたようだ。

「はい、はい、ええそうです…フフフ」

ほむらは目を瞑りながら口元を緩めた。彼女にしては珍しいことだ。この携帯の向こう側にいる初老の男は、相方の職場の上司であった。何か二言三言会話をした後、ほむらが「え?」と呟いた。

「ええ、いつも一緒に寝てますけど何か?………もしもし、岡山さん?」

返事が無い――何かまずいことでも言っただろうか?

しばらくして、男の全ての感情を押し殺したような機械的な声がした。

「今からですか?わかりました…」

ほむらはゆっくりと視線を左側の己の腰のあたりのシーツに向ける。膨らみのあるシーツの下には熟睡しきって夢の住人となっている相方がいて。

「さやか」

ぽん、ぽんと家の主が比較的優しくその膨らみを叩く。膨らみはもぞもぞ動き、ぴょこん、と蒼い髪を覗かせた。寝ぐせのついた髪の下には、眠たそうに未だ固く目を閉じている顔があって。そっと主は口元を緩ませる。

「ん…?」

呻き声をあげながら、どうにか片目だけ開けて蒼い髪の女性――美樹さやかは、ほむらを見上げた。肩をすくめて「電話よ」とだけ囁くと、ほむらは携帯をさやかの耳元にあてた。
携帯から男のがなりたてる声が漏れた。

「――ん、何…て、しゅ、主任っ?」

寝ぼけ声から一気に覚醒した声に移行し、さやかは勢いよく起き上がった。その横でほむらが口を抑え肩を震わせる。

「あ、はい、わかりましたすぐ行きます!」

ベッドから身軽に飛び降りると、さやかはクローゼットに駆けより中からスーツを取りだした。手際が良いのは、彼女がいつもこういう緊急呼び出しに慣れているからだ。着替え始めた相方の背中を見つめながら、ほむらが「事件なの?」と気だるげに聞いた。

「うん、何か口を割ったんだって」
「貴方が行かなきゃいけないもの?」

やや不機嫌そうに髪を撫ぜながらほむらが問う。
さやかはきょとん、と垂れ気味の目を相方に向けた。

「私と主任があげたホシだもの」
「ふうん…」

警察官とは面倒なものだ。とほむらは思ったが、もちろん口にはしない。その代わり、力なく相方の寝ていた所にぽすん、と身体を倒し、再び目を瞑る。ふて寝だ。

「起こしちゃってごめん」

着替えを済ましたさやかはベッドに戻ると、その手を伸ばし相方の黒髪に触れた。さらり、と一回だけその髪を梳く。

「それだけ?」

横目でさやかを見つめ、口元を緩める。どこか挑戦的な表情の黒髪の女性。困ったように、眉を下げながら、さやかは顔を相方の頬に近づけた。軽く接触する唇の感触で、フフ、とほむらは笑う。

「へたくそね」

そう言って、ほむらは身体を仰向けにしながら手を伸ばした。相方の頭を捉えるとそのまま引き寄せる。さやかの額や首元についばむように唇をあてた後、そのまま胸元へ抱き寄せた。顔を赤くするさやか。だが、それも最初だけで。黒髪の美女の抱擁は結構長く続いた。

「……そろそろ行くわ…てか、ちょ、苦しい!ほむら!」

顔を胸元に押し付けられて息が出来ないのだろう、関節技を決められた敗者のように、さやかがほむらの腕をポンポン、と叩く。タップアウトのようだ。

「だめよ、もう少し…」
「ち、窒息するわ!」

はあ、と息を勢いよく吐きながら、さやかは相方の抱擁から抜け出した。不満気に口を尖らせるほむら。

「し、仕事行く前に死んじゃうじゃない!」
「あら、もう少し覚えてもらわないと、貴方が帰れなくなるもの」
「?」

不思議そうに見下ろすさやかを面白そうに見上げ、ほむらは囁いた。

「飼い主の匂いをきちんと覚えてないと、犬はおうちに帰れないって…」
「マーキング?てか犬じゃないわっ!」

相方の叫びと同時にほむらは吹き出す。どうにも彼女は相方を愛犬扱いすることが多いのだ。ひとしきり笑った後、ほむらは「いってらっしゃい」と小さく囁いた。

*     *     *

数秒後、再び夜の静謐が訪れた。先ほどと違うのは傍でいつも体温を感じさせてくれる相方がいないこと。ふう、と息を吐き、ほむらはサイドテーブルに置いてある茶色い物体をやや乱暴に抱き寄せた。それはクマのぬいぐるみだった。ベッドで仰向けになりながら、ぬいぐるみを抱き上げてほむらは囁く。

「……お前、ほんとは犬なんでしょ?」

そうしてその胸元にぬいぐるみを置くと、感触を楽しむように数回撫でた。

『てか犬じゃないわっ!』

そう叫んだ時の相方の顔を思い出して、ほむらは再びくすくすと笑う。そうして、何か思い出したように、あ、と珍しく呟いた。相方の首に痕をつけてしまっていたのだ。

――こんな時間までいつも一緒なのかい?

初老の男の心配そうな声を思い出す。あの時なんて答えただろう?職場に辿り着いた相方が上司に質問攻めになるのを想像して、ほむらは再びくすくすと笑った。

まあ、たまには相方が困る様を想像するのも楽しいものだ――そう思いながら、彼女はまた幸せな眠りについた。起きた時に、傍に蒼い髪の女性がいることを祈って。


その蒼い髪の相方が職場でひどい質問攻めにあったことと、黒髪の女性が目覚めた時にはご希望通り愛犬が戻って来たのはまた別の話――。


END